ちえの庭

一主婦の日々です。脳梗塞で左片麻痺になった夫を介護しながら、日々を丁寧に、健康に、暮らしたいと思っています。そんな日常と日々の知恵です。

嫉妬と憧れ

嫉妬と憧れは、表裏一体だと思っています。

同じもの。

嫉妬するほど、いいものを持っている人が身近にいたら、素敵だと思いませんか。

ものって物じゃないですよ。

 

変な例なのですが、

 

夫が入院していたリハビリ病院で、隣のベッドにいたのは、夫よりもずいぶん若い、青年と中年の間くらいの人でした。

 

普通の病院ではなく、リハビリ病院なので、間には家具があり、隣の様子はほとんど見えません。

でも、生活していれば、隣のことがよく見えてくる、わかってくる。

 

彼は、交通事故で脳を損傷し、両足でちゃんと歩けるけれど、知能をやられているようでした。

独身で、1カ月に1度、高校の時の同級生の女性が訪ねてきていました。

 

最初は、夫のことを変なおじさん、くらいに思っていたようです。

私が毎日、行くことを不思議に思い、時々、のぞいていました。

 

夫は、礼儀正しく、愛されキャラです。

日に日に、スタッフの心を掴み、大事にされていきました。

 

ある日、彼は、夫の真似をするようになりました。

新聞を読み、本を読んでいる夫の真似を。

 

塗り絵やジグソーパズルをやっていた彼が、スポーツ紙でしたが、新聞を開くようになり、何なのかわかりませんが、本を見ていました。

 

夫の話によると、朝、スタッフが夫を先に着替えさせようとすると、割り込んできて、自分を先にと、駄々をこねていたようです。

 

明らかにライバル視されてるんだよ、と笑っていました。

 

ぼんやりと、自分勝手だった彼が、どこかに向かおうと手探りで、もがいているように見えました。

 

ある日、洗面所を見て、びっくりしました。

夫の歯ブラシが、彼のところにあるのです。

看護師さんに報告すると、もうその歯ブラシを使ってはいけない、でした。

夫のようになりたい彼が、夫の歯ブラシまで使ったのです。

 

私は、夜、寒空の下、交通量の多い道路をわたり、向かいのコンビニに歯ブラシを買いに行きました。

 

翌日、病院の責任者が、正式に謝罪にきました。

食事の後、歯磨きまできちんと患者に付き添うルールだったからです。

 

夫の退院が決まり、彼にもちゃんと挨拶して、握手くらいして、お別れしようと思っていました。

 

ある日、夫のリハビリで、リハビリ室に行き、帰ったら、隣のベッドが片付けられていました。

 

スタッフに聞くと、他の施設に転院していったとのことでした。

あらあら、お別れもしないで行っちゃったのね。

私たちのこと、覚えているかしら。。。

 

嫉妬と憧れを思う時、彼を思い出します。

多分、夫は、彼に生きる目標を与えた、目印のような、超えたい相手だったのです。

 

動機が、憧れであっても、嫉妬であっても、目標を見据えて、自己変革していこうとするのは、いいものです。